大判例

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高松高等裁判所 昭和24年(ネ)174号 判決

控訴代理人は原判決を取消す。被控訴人が控訴人所有の高知県安芸郡安芸町穴内字下田六十四番地田一反二十二歩につき訴外桑名景吾のため昭和二十三年六月十一日附でした賃借権設定の裁定を取消す。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は原判決事実摘示と同一であるからこゝに之を引用する。(立証省略)

三、理  由

被控訴人が高知県安芸郡安芸町穴内字下田六十四番田一反二十二歩につき訴外桑名景吾のため昭和二十三年六月十一日附で賃借権設定の裁定をしたことは当事者間に争がなく又被控訴人が右農地につき賃貸借契約締結の協議に干し右訴外人に対し承認を与えたことは弁論の全趣旨に徴し認められる。そこで被控訴人の右承認に控訴人主張の違法があるかどうかにつき審按する。

(一)  原審並びに当審証人谷山薫原審証人尾木卯三郎多田憲当審証人長野石井の各証言及び原審並びに当審における控訴本人尋問の結果を総合すると控訴人は昭和十年頃前記訴外桑名景吾に対し期間の定めなく小作料反当一石八斗五升で賃貸したところ、昭和二十年九月頃養子兼一が復員することになつたので同訴外人と交渉の末、本件農地の返還につきその頃一応両者の間に合意が成立したけれども、それはその際即時に該農地を控訴人に引渡すというのではなくして右訴外人がその年の麦作をすること、すなわち翌昭和二十一年五月麦を収穫するまで耕作を継続することを控訴人において承諾しこれにより右訴外人はその年の麦作を為し翌昭和二十一年六月頃控訴人は右訴外人から現実に本件農地の引渡を受けたことが認められ、また当審における控訴本人尋問の結果によれば控訴人の居部落においては稲作後土地返還の合意が成立しても表作(稲作)をした者が裏作(麦作)をする慣習の存することが認められるから、これら認定事実を総合すると本件農地の賃貸借は当事者の合意により昭和二十一年六月終了したものと認定するを相当とする。右認定に反する甲第一号証の記載原審証人尾木卯三郎の証言の一部原審並びに当審における証人桑名景吾の証言は信用しがたく他に右認定を覆すに足る証拠はない。それ故右訴外桑名景吾は昭和二十年十一月二十三日現在依然本件農地の賃借人であつたものと言うべきであり、従つて前記承認申請の資格において欠くるところはない。

(二)  控訴人は右訴外人の承認申請書には記載事項に不備の点があると主張し成立に争いない甲第一号証耕作権復権申請書と題する承認申請書には農地調整法施行規則附則第二条所定の記載事項中当該農地の面積、世帯員の状態、農業に従事するものの員数その他の記載が欠けていることは明かであるけれども(右に反する原審証人尾木卯三郎の証言は信用できない)右施行規則附則第二条所定の記載事項は農地委員会の調査の参考のため記載を要求されるものであつて、その事項中若干の記載が欠けていてもそのため当然右承認申請ないしは承認が違法となるものとは考えられない。

(三)  控訴人は前記合意解除が適法且つ正当なものであると主張するので、この点について判断する。昭和二十二年十二月二十六日法律第二百四十号を以て農地調整法が改正される以前においては農地賃貸借の合意解除については都道府県知事の許可を必要としなかつたものと解するを相当とする。故に前示本件農地賃貸借の合意解除については知事の許可を要しないものというべく従つて右合意解除につき、たとえ知事の許可がなくても適法であるといわなければならない。しかし原審並びに当審における証人桑名景吾同尾木卯三郎当審証人仙頭鹿代の各証言原審並びに当審における控訴本人の尋問の結果を総合すれば控訴人も訴外桑名景吾もいずれも牛一頭を飼育して農業に従事している専業農家であるけれども、控訴人方の家族は六名のうち農業に従事する者四名その耕作面積本件農地一反二十二歩を併せ田畑計約八反であるに反し、右訴外人桑名方の家族は十名のうち耕作に従事する者三名耕作面積は本件農地を除き田畑計約五反に過ぎず、右訴外人は昭和十年頃本件農地を賃借して以来賃料の支払を多少遅延することはあつても(但し昭和二十年度分は不作のため完納できなかつた)未納に終つたことのないこと(右に反する原審並びに当審における控訴本人の尋問の結果は措信しない)右訴外人が本件農地を失うことにでもなれば生活維持の手段を失う危険があることが認められるから前記合意解除は正当なものと言うことができない。右認定に反する当審証人長野石井同長野兼一の証言には前記証言に照し信用しない。なお右訴外人が控訴人以外の者に対し返地しておることは原審証人谷山薫の証言によつて認められるけれどもこの事実あればとて直ちに訴外桑名の右承認申請が信義に反するものとは断じがたく他に之を認むべき事実の主張も立証もない。

(四)  最後に被控訴人の裁定自体に違法があるかどうかについて案ずるに控訴人は賃貸借契約の復活に関して右訴外桑名から協議を求められたことがないと主張するけれども、この点に関する原審における控訴本人(原告)尋問の結果は信用しないし他に之を認むべき資料はない。却つて原審証人尾木卯三郎の証言によれば右訴外桑名は控訴人に協議を求めたが、不調となつたので裁定の申請をしたことが認められる。又その申請につき不調事由の記載が欠けているとの点については之を認むべき証拠がない。次に被控訴人の裁定書には賃貸借の契約内容を定めた条項の記載がないけれども元来賃貸借権設定の裁定は以前に賃借人であつた者のためその賃借権を回復させることを目的とするものであるからその裁定において特に賃貸借の契約内容が定められない場合はそれは従前の例に従うものと言うべくこのことは原審証人尾木卯三郎の証言によつて明かである。

以上説明のとおりであつて被控訴人の本件裁定には違法な点はない。従つてこれを違法としてその取消を求める控訴人の本訴請求は失当であつてこれを棄却した原判決は相当である。よつて民事訴訟法第三百八十四条により本件控訴を棄却し訴訟費用の負担につき同法第八十九条第九十五条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 前田寛 近藤健蔵 萩原敏一)

原審判決の主文および事実

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は全部原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は「被告が安芸郡安芸町穴内字下田六十四番田一反二十二歩につき訴外桑名景吾のため昭和二十三年六月十一日附でした賃借権設定の裁定を取消す。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求める旨申し立て次のように述べた。「原告は請求の趣旨記載の農地を所有し昭和十年頃から訴外桑名景吾に期間の定めなしで賃貸していたが昭和二十年末近く養子兼一が復員することとなつたので自作のため右訴外人と合意の上この賃貸借契約を解除しその返還を受け翌二十一年の稲作からこれを自作中である。ところが右訴外人は被告に対し賃借権回復の申請をし、被告は昭和二十三年六月十一日附で右訴外人のため賃借権設定の裁定をした。しかしながら被告のこの裁定は次のような点から違法である。先づ被告が右訴外人に対しこの裁定の前提である賃貸借契約締結の協議のため与えた承認が違法である。すなわち(一)本件農地の賃貸借契約は前記のとおりすでに昭和二十年十月末合意の上解除されているから右訴外人は同年十一月二十三日当時は賃借人でなく従つて右承認を申請する資格がない。(二)右訴外人の承認申請書には農地調整法施行規則附則第二条所定の記載事項中所有農地の面積、世帯員の状態、農業に従事するものの員数、農地の引渡を受けようとする時期等の記載が欠けているのでこの申請は不適法である。(三)仮りに前記合意解除が昭和二十一年二月一日以後であるとしてもこの解除は適法且つ正当なものであるから被告は前記の承認を与えることができない。すなわち昭和二十一年中の合意解除については農地委員会の承認も知事の許可も必要でないし、又そもそもこの解除は右訴外人が約束の賃料米一石八斗五升を年々満足に支払つたことがなく、殊に昭和二十年度には僅か玄米一斗と屑米一斗しか払わないため原告が自作する目的でなされたものである。(四)右訴外人の承認申請は信義に反する。けだし右訴外人は前記のように賃料の不払がありしかも別に数名のものに対し賃借地を返地しているにかかわらず、そのものに対しては申請しないで返地以来すでに三年間も自作している原告に対しかような申請をしたからである。次に被告の裁決自体にも違法がある。すなわち賃借権設定の規定を申請するためには先づ所有者と協議をした上その不満の事由を記載した申請書を提出しなければならないが、右訴外人は原告に協議を求めたことがなく従つて又不満の事由も勿論申請書に記載していない。又裁定においては賃借期間、賃料及びその支払方法その他の条件を当然定めるべきであるが、被告の裁定はこれ等の事項を何も定めていない。以上の点から被告の本件裁定は違法であるから原告はその取消を求めるため本訴に及んだものである。」(立証省略)

被告指定代理人は「原告の請求は棄却する」との判決を求め、次のように述べた。

「原告の主張事実中被告が本件農地につき訴外桑名景吾のため原告主張の日附で賃借権設定の裁定をしたことは認めるが、その余の事実は争う。原告主張の解除は昭和二十一年七月のことであるから農地調整法第九条による農地委員会の承認が必要であるが原告はそれを受けていない。又同法施行規則附則第二条は訓示規定であるからそれに反しても申請の効力に影響はない。原告は解除の合意成立前に本件農地を強奪し処罰をおそれぬと放言しているのでとうてい適法、正当な合意解除ではない。又高知県には毎年検見の上賃料を減額する慣行があり右訴外人はそれに則つて支払をしたもので滞納の事実はない。しかも昭和二十年度は著しい不作のため支払ができなかつたものでこれには宥恕すべき事情がある。なお、本件裁定が殊更原告主張のような条件を定めないのは従前と同一条件で賃借権を設定する趣旨であつて全く条件を定めないものではない。従つて本件認定には何も違法はない。」(立証省略)

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